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交通事故に遭うと、身体・心理・生活・社会的な面で多面的な影響が生じます。事故被害では治療費や修理費とは別に、精神的損害に対する賠償(慰謝料)を請求することができます。
しかし、慰謝料の請求は、素人が対応するのは困難であり慰謝料の請求で損をするケースも少なくありません。
この記事では、交通事故による慰謝料の種類、慰謝料の相場、要件、慰謝料の請求方法、注意点について詳しく解説いたします。
慰謝料とは?
慰謝料とは、他者の違法な行為によって生じた精神的な苦痛に対し、被害者が賠償を求めることができる金銭補償です。
交通事故や配偶者の不貞行為(浮気・不倫)、ハラスメントや暴力など、その行為が違法と認められた場合に請求が可能であり、受けた精神的ダメージを癒すための補償という位置づけになります。
ただし、法律上の違法性が確認されなければ、苦痛を感じていても慰謝料の請求は認められません。
交通事故の慰謝料の種類
交通事故の慰謝料の種類は、以下の3つです。
入通院慰謝料(傷害慰謝料)
入通院慰謝料(傷害慰謝料)は、治療期間中の苦痛・不便・通院負担に対して発生する慰謝料です。入院期間が長い・通院頻度が多いほど増額します。
・通院日数や実際の治療期間で計算
・打撲・むち打ち・骨折など
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は、事故治療後も元の状態に戻らない場合に認定される慰謝料です。医師の診断書・検査結果が必須となります。
損害保険料率算出機構の後遺障害等級(1〜14級)によって慰謝料額が大きく変動します。
1級(重度)>>14級(軽度)
めまい・痛み・視力障害・労働能力低下など
死亡慰謝料
死亡慰謝料は、被害者本人の精神的損害 + 遺族固有の精神的損害があります。法定相続人の構成、扶養関係に応じて増額します。
・配偶者・子・親 → 認められやすい
・兄弟姉妹 → 限定的(裁判例に依存)
慰謝料の算定基準について
慰謝料は算定基準によって大きく金額が変わります。
自賠責基準(最低ライン)
強制保険(自賠責)で定められた最低補償額
被害者救済目的で一律の計算式
・最も低い金額
・弁護士・裁判交渉ではほぼ使われない
任意保険基準(中間)
保険会社の内部基準です。事故処理実務ではよく用いられます。
・自賠責より高いが裁判基準より低い
弁護士(裁判)基準(最高)
裁判所実務・判例に基づく標準で、もっとも高額です。弁護士に依頼した場合はこの基準で交渉可能です。
慰謝料額に影響する要素
ここでは、慰謝料額に影響する要素について解説いたします。
被害の程度
交通事故の慰謝料額において「被害の程度」は最も重要な判断要素です。
単なる痛みや軽い打撲では慰謝料は比較的低額ですが、骨折や後遺障害など身体に重い損傷があるほど慰謝料は増加します。
特に「治療期間」「入通院日数」「事故後の生活影響」が評価され、治療が長期化したり、仕事・日常生活に大きな支障が出た場合は増額されます。
後遺障害等級が認定されると大幅に慰謝料が高くなり、等級が高いほど賠償額は上昇します。
また、精神的苦痛や、長期のリハビリ・就労制限による生活の継続的負担も加味され、総合的に判断されます。
| ・けがの深刻さ ・入院期間・通院期間 ・後遺障害の有無・等級 |
生活・収入への影響
交通事故の慰謝料額を左右する要素として「生活・収入への影響」は非常に重要です。
事故により通院やリハビリが必要となり、家事や育児ができなくなるなど日常生活に支障が生じた場合、被害者の精神的負担が大きく、慰謝料額は増加します。
また、ケガの影響で仕事を休職したり、転職を余儀なくされたり、収入が減少した場合は、休業損害として金銭的な補償が加算されます。
さらに後遺障害により将来の労働能力が低下した場合、逸失利益として将来的な収入減も賠償対象となり、慰謝料とは別に大きな金額が発生することがあります。
こうした生活への支障や収入への影響は、治療記録や勤務証明などの客観的資料で裏付けることが重要です。
| ・仕事を休業した期間 ・転職・退職 ・家庭・介護負担 |
被害者の属性
交通事故の慰謝料額に影響する要素として「被害者の属性」も重要です。
ここでいう属性とは年齢・職業・社会的立場・生活状況などを指し、同じケガでも受ける影響が異なる場合は慰謝料の評価に差が出ます。
例えば、身体能力が高い若年層が長期間の通院を要する場合、仕事や学業への支障が大きく精神的負担も増すため、評価が上がりやすい傾向があります。
反対に、高齢者では骨折や後遺障害が生活の質に直結しやすく、日常動作の制限や介護負担が増えるため、精神的損害が重く認定されるケースがあります。
また、スポーツ選手や専門職など、身体機能の低下が直接職業能力に影響する人は、損害が深刻と判断され、高額の賠償が認められることがあります。
| ・年齢(若年・育児世代は影響大) ・家族構成 ・職業 |
過失割合
交通事故の慰謝料額を決定する際には「過失割合」が大きく影響します。
過失割合とは、事故における当事者それぞれの責任の割合を示すもので、被害者にも一定の過失がある場合、慰謝料や損害賠償がその割合に応じて減額されます。
例えば、被害者の信号無視や脇見運転、歩行者の無灯火自転車などが認められると、加害者のみが全面的に責任を負うケースより慰謝料は下がります。
一方、被害者側に過失がない「もらい事故」では、請求額は原則満額が認められやすく、後遺障害や長期治療の場合は高額になることもあります。
過失割合は警察の事故調書や保険会社の判断、判例を基準に総合的に決定されるため、証拠と経緯の整理が重要です。
| ・追突 → 加害者100% ・横断歩道外横断 → 被害者過失あり |
交通事故の慰謝料で有効な証拠
慰謝料請求で最重要なのは証拠です。ここでは、交通事故の慰謝料請求における有効な証拠について紹介いたします。
医療系証拠
交通事故の慰謝料請求において、医療系証拠は最も強力で信頼性の高い証拠群です。慰謝料は「被害者が受けた精神的苦痛」に対する賠償ですが、その裏付けとして身体的損傷の有無・程度・治療経過を客観的に示す資料が必要になります。
| ・診断書(初回) ・経過診断書 ・画像検査(MRI・X線) ・通院履歴・投薬記録 |
事故証拠
交通事故の慰謝料請求において、事故そのものが発生した事実を裏づける「事故証拠」は非常に重要です。医療証拠が「ケガの存在」を示す一方、事故証拠は事故の態様・加害者の責任・過失割合を確定させる役割を担います。
| ・事故現場写真 ・ドライブレコーダー動画 ・警察の実況見分調書 ・目撃者証言 |
生活影響
交通事故の慰謝料請求において、生活への影響は慰謝料額を大きく左右する重要な要素です。単なるケガの有無だけでなく、事故が被害者の生活全体にどれほど支障をもたらしたかが評価されます。
| ・休業証明書 ・会社の勤怠 ・家族・介護負担記録 |
交通事故の慰謝料の相場は?
交通事故の慰謝料の相場を以下に紹介いたします。
・入通院慰謝料(傷害慰謝料):約19万~89万円
・通院3か月の目安:軽傷で約53万円、やや重めのケガで約73万円
・通院6か月の目安:軽症~重症で最大約116万円前後
・後遺障害慰謝料:約110万円~最大で数百万円〜数千万円
(等級・症状により大きく幅あり)
・死亡慰謝料:数百万円~数千万円台
(事故内容・被害者との関係によって大きく変動あり)
交通事故の慰謝料の請求方法について
交通事故における慰謝料の請求方法には、以下の3つの方法があります。
加害者の任意保険会社へ請求(最も一般的)
保険会社が窓口となり、治療費・休業損害・慰謝料をまとめて支払います。ただし保険会社は自社基準(低め)で提示するため、示談額が低くなりやすいです。
メリット:
・手続きが簡単
・交渉の手間が少ない
デメリット:
・慰謝料が相場より低いことが多い
自賠責保険に「被害者請求」
加害者の任意保険がない・交渉が難航した場合に利用できます。最低限の補償(上限120万円)を被害者が直接請求できます。
メリット:
・相手が非協力でも請求可能
・自賠責基準で確定
デメリット:
・実際の損害に比べ低額になることが多い
加害者本人へ直接請求
任意保険に未加入・支払い拒否・悪質事故の場合に選択します。必要に応じて弁護士介入・調停・訴訟へ進みます。
交通事故の慰謝料の請求における注意点
交通事故の慰謝料の請求において以下のことに注意する必要があります。場合によっては、慰謝料が1円ももらえないケースも発生します。
病院へ行かず我慢する
病院へ行かずに我慢した場合、慰謝料をもらえる可能性は極めて低くなります。
慰謝料は精神的苦痛への賠償ですが、その根拠は「身体的損傷」の存在です。医師の診断書や治療記録がなければ、
・本当にケガしたのか
・事故との因果関係があるのか
・痛みの程度はどれほどか
を客観的に証明できず、保険会社・裁判所は認めません。
整骨院のみ通院
整骨院(接骨院)だけに通院した場合でも慰謝料を受け取れる可能性はありますが、評価は低くなりやすく、保険会社から否認されるリスクが高いです。
慰謝料は精神的苦痛に対する賠償ですが、その根拠は医療的に確認された身体損傷です。整骨院は医師ではなく柔道整復師が施術するため、
・診断書
・傷病名
・事故との因果関係
を医学的に証明できません。
加害者との口約束
加害者との口約束だけでは慰謝料を「確実にもらえる」とは言えません。成立しても法的効力が弱く、未払い・反故にされるリスクが非常に高いです。
交通事故で慰謝料を請求する際は、まず警察へ通報して事故証明を取得することが重要です。
「軽い事故だから」と自己判断して届出を怠ると、事故自体が証明できず慰謝料請求が成立しない可能性があります。
次に、病院で診察を受け診断書を取得し、ケガの存在と程度を医学的に証明します。これがなければ慰謝料の根拠が崩れてしまいます。
さらに、加害者とのやり取りは必ず書面化し、示談書に慰謝料の金額、支払期日、振込先、遅延時の対応、過失割合を明記し、署名と押印をそろえることで第三者が確認できる形にしておくことが大切です。
示談書にすぐ署名する
示談書にすぐ署名すると、慰謝料がもらえない、または極めて低い金額で固定されてしまう可能性があります。
示談書にサインする前に以下の項目が明確か必ずチェックしてください。
・慰謝料額
・医療費
・休業損害
・後遺障害の扱い
・追加請求の可否
・いつ・どの口座へ支払うか
・分割・遅延時の措置
曖昧・口約束・担当者の言葉は一切信用しないことです。
まとめ

交通事故による慰謝料の種類、慰謝料の相場、要件、慰謝料の請求方法、注意点について解説いたしました。
交通事故の慰謝料請求では、まず事故証明を確保するため必ず警察に届け出ることが重要です。
軽微な事故でも証明がなければ請求が認められない可能性があります。
次に、早期に病院を受診し診断書を取得し、治療の継続や通院頻度を記録します。医療証拠がない場合、痛みがあっても事故との因果関係が証明できず、慰謝料が減額または不成立となることがあります。
さらに、事故状況の写真、ドライブレコーダー映像、目撃証言などの客観的証拠を揃え、過失割合の判断に備えることも大切です。
保険会社が提示する金額は低めのことが多いため、必要に応じて弁護士基準で再交渉し、示談書は内容を確認し納得できる条件で署名することがポイントです。


