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パワハラ(職場でのパワーハラスメント)による慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求の一種であり、被害者が受けた精神的苦痛への補償を求める手続きです。
この記事では、パワハラの慰謝料の相場(金額)は?種類、要件、請求方法、注意点について徹底解説いたします。
慰謝料とは?
慰謝料は、他人の違法な行為によって受けた精神的苦痛に対し、被害者が損害賠償として請求できる金銭です。
交通事故や配偶者の不貞行為(浮気・不倫)、職場でのハラスメントや暴力など、法的に不法行為と判断されたケースでは請求が可能で、被害者の心身に生じたダメージを和らげる目的を持つ補償と考えられます。
一方、違法性が認められない場合は、本人が強い苦痛を感じていたとしても慰謝料請求は成立しないことに注意が必要です。
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パワハラの慰謝料の種類
パワハラ(職場でのパワーハラスメント)に関する慰謝料には、「精神的損害に対する慰謝料」だけではなく複数の種類が存在します。
精神的苦痛に対する慰謝料
精神的苦痛に対する慰謝料は、パワハラの最も基本的な慰謝料です。暴言・人格否定・過度な叱責・孤立・業務排除などで生じた精神的苦痛に対する損害賠償です。
判断基準には、以下のようなものがあります。
・行為の悪質性(暴力・侮辱など)
・期間の長さ(継続性)
・被害者の立場(新人・非正規など)
・社内環境(組織的放置・上層の黙認)
休業損害(給与減少・欠勤の補償)
休業損害とは、パワハラにより体調悪化・業務不能となり、以下の理由により給与が減った場合、その減収分を賠償請求できます。
・欠勤
・長期休職
・勤務制限
治療費の賠償
精神的損害に伴う診察・通院・投薬・心理療法などの医療費も請求可能です。レシート・診療明細が証拠として有力です。
・心療内科の受診
・抗不安薬・抗うつ薬
・カウンセリング費用
後遺障害(長期的な精神疾患)の慰謝料
適応障害・うつ病・PTSDなどが長期化し、
治療しても改善しない場合は後遺障害として評価されます。一般の慰謝料より大幅増額が期待できます。
・長期療養
・社会生活困
・就業不能
逸失利益(将来の収入損失)
精神障害の影響で以下の理由により発生した将来収入の喪失分も請求対象です。(交通事故で用いる考え方と同じ)若手・専門職・管理職ほど高額化する傾向にあります。
・退職
・転職による収入低下
・キャリア断絶
懲罰的損害賠償(間接的)
日本では制度上の懲罰賠償は認められていませんが、裁判実務では以下のようなことが発覚すると慰謝料額が跳ね上がるケースがあります。
・組織ぐるみの隠蔽
・重大な放置
・被害者への報復
退職強要による賠償
パワハラが原因で退職せざるを得なかった場合、以下のような賠償が認められることがあります。
・退職時期の損害(予定給与)
・転職期間中の収入減
・社会的損失
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パワハラの慰謝料の相場について
パワハラに関する慰謝料や損害賠償の相場について、代表的なケースごとの目安を整理しました。ただし、金額は「パワハラ行為の深刻度」「証拠の内容と量」「加害者や会社の対応」「被害者の立場や健康状態」などによって大きく変動します。そのため、ここで示す金額は、あくまで一般的な目安としてご覧ください。
精神的苦痛に対する慰謝料
一般的なパワハラに対する慰謝料は、暴言や過度な叱責、人格否定といった行為であれば、30〜100万円程度に収まることが多いとされています。
これに対し、パワハラが原因で精神疾患を発症したり、休職を余儀なくされた場合は、50〜200万円ほどに増額されることもあり、状況によってはさらに高額となるケースも見られます。
さらに、長期間にわたる悪質な行為や、反復的なハラスメント、自殺未遂など深刻な被害が伴う事案では、慰謝料が大幅に上乗せされる可能性があります。
休業損害・治療費の賠償
これらの項目は、実際に生じた損害額をもとに算定されるため、明確な相場は存在しません。ただし、医療費や休職による賃金減少といった損害を請求するには、その金額を示す客観的な証拠が不可欠です。裁判においても、これらの実費に加えて慰謝料を併せて認められる事例が見られます。
後遺障害慰謝料・逸失利益
パワハラが原因で深刻な精神疾患が長期化したり、労働能力が大きく損なわれたと判断される場合には、慰謝料に加えて逸失利益も含めた高額の賠償が認められることがあります。実際の裁判では、数百万円から場合によっては数千万円に達する例も報告されています。
懲罰的損害賠償
日本の裁判では、いわゆる「懲罰的賠償」が制度として設けられていません。しかし、パワハラが極めて悪質であったり、同様の行為が繰り返されていた場合、あるいは会社ぐるみの隠蔽や重大な過失が認められるような事案では、通常の慰謝料水準を超える損害賠償が認定されることもあります。
退職強要による賠償
パワハラによって退職を余儀なくされた場合には、退職時点までの給与だけでなく、将来的な収入の減少分や転職によって被る不利益なども損害として認められる可能性があります。ただし、賠償額は事案の内容や被害の程度により大きく変動します。
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パワハラの慰謝料の請求方法について
パワハラの慰謝料を請求する方法は、大きく分けて 「社内手続き」→「交渉」→「法的手続き」 の3段階で進みます。以下にパワハラの慰謝料を請求の実務的な流れを説明します。
| パワハラの慰謝料の請求方法の流れ |
➊ 証拠を集める(最重要)
❷ 会社の窓口に相談する
❸ 加害者・会社との示談交渉
❹ 労働審判を申し立てる(交渉で解決しない場合)
❺ 民事訴訟(裁判)をする |
➊ 証拠を集める(最重要)
慰謝料請求は、証拠がなければ成立しません。
パワハラの慰謝料請求に有効な証拠を以下に示します。録音と診断書は最強クラスの証拠 です。
・暴言・叱責の録音
・侮辱的メッセージ(メール・LINE・チャット)
・心療内科の診断書(うつ・適応障害など)
・日記・メモ(日時、場所、内容の記録)
・休職・欠勤の記録
・上司・同僚の証言
・会社への相談履歴(人事・総務・コンプラ窓口)
❷ 会社の窓口に相談する
まずは社内のハラスメント相談窓口・人事部に報告します。社内対応の記録は、その後の法的手続きでも有力な証拠となります。
会社が行うパワハラの処置には以下のようなものがあります。
・加害者への指導・配置転換
・職場環境の改善
・再発防止措置
・調査報告書の作成
❸ 加害者・会社との示談交渉
慰謝料を請求する際は、加害者本人または会社に対して書面で正式に請求します。内容証明郵便で行うのが一般的です。
・どのようなパワハラ行為があったか
・被害状況(精神的苦痛・治療状況)
・請求額(慰謝料・損害賠償)
・期限(通常2週間程度)
❹ 労働審判を申し立てる(交渉で解決しない場合)
労働審判は、裁判より速く・安く解決できる手続きです。多くのケースは労働審判で解決します。
・1~3回の審理で早期解決
・証拠提出が必須
・パワハラ慰謝料の請求が認められる可能性が高い
❺ 民事訴訟(裁判)をする
労働審判で決着しない場合、裁判へ移行します。裁判は時間と費用がかかりますが、認められれば高額の慰謝料が認定されることもあります。
裁判で認められやすいケースには、以下のようなものがあります。
・録音やメールなどの証拠が強力
・精神的損害が大きい(診断書あり)
・パワハラが長期間継続していた
・会社が放置していた
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まとめ

パワハラの慰謝料の相場(金額)、種類、要件、請求方法について徹底解説いたしました。
パワハラの慰謝料請求では、まず暴言の録音、メール、チャット履歴、診断書、日々の記録など客観的な証拠の確保が最重要です。
次に、会社の相談窓口や人事部に報告し、改善措置を求めた事実を残すことが後の手続きに有利に働きます。
加害者や会社との示談交渉では、行為の内容・期間・精神的損害・治療状況に基づき慰謝料額を提示します。
交渉がまとまらなければ労働審判を申し立て、それでも解決しない場合は民事訴訟に進みます。
慰謝料額は、パワハラの悪質性、被害の深刻度、証拠の強さで大きく変動するため、証拠と記録の充実が成功の鍵となります。