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傷害事件の慰謝料請求は、暴行や傷害行為によって身体的・精神的な被害を受けた場合に、加害者へ損害賠償を求める法的手続きです。
この記事では、傷害事件の慰謝料の相場(金額)、要件、種類、請求方法、注意点について徹底解説いたします。
傷害事件で慰謝料が請求できる要件
傷害事件は刑法上の犯罪(暴行罪・傷害罪)であり、民法上は 不法行為 に該当します。したがって被害者は、加害者に対して次の賠償を請求できます。
・慰謝料(精神的苦痛に対する賠償)
・治療費・通院費
・休業損害(仕事を休んだ損失)
・後遺障害が残った場合の損害賠償
・交通費・雑費などの実費
傷害事件の慰謝料の種類
傷害事件で請求できる慰謝料の種類にはいかのようなものがあります。
慰謝料(精神的苦痛)
慰謝料は、傷害事件によって受けた 精神的ショックや恐怖、不安、生活の不便さ に対して支払われる賠償金です。慰謝料の金額は、ケガの重さ・治療期間・後遺症の有無・加害行為の悪質性 によって大きく変動します。
対象となる精神的被害には、以下のようなものがあります。
・暴力を受けた恐怖心
・ケガの痛みや後遺症への不安
・仕事や生活への支障
・対人関係への影響
治療費・薬代
ケガを治すために必要となった 医療費の実費を請求できます。領収書、診療明細を保管することが必須となります。
・診察料
・検査費(レントゲン、MRIなど)
・投薬費
・手術費用
・リハビリ費
交通費
通院や検査のために利用した交通手段の費用も賠償対象となります。
・電車・バス代
・タクシー代(必要性が認められる範囲)
・ガソリン代・駐車場代(自家用車の場合)
通院日と交通手段は記録しておくとスムーズです。
休業損害
ケガで 仕事を休まざるを得なかった期間の収入減 を請求できます。
●対象者
・正社員・契約社員
・パート・アルバイト
・個人事業主(売上減も含む)
●必要な証拠
・給与明細
・勤務スケジュール
・休業証明書(会社が発行)
後遺障害による損害
治療後もケガが完全に回復せず 後遺症が残った場合に請求できる賠償です。
内容は次の2つに分かれます。
●後遺障害慰謝料
・後遺症が残った精神的苦痛に対する慰謝料。
重い後遺障害ほど高額になります。
●逸失利益(将来の収入減)
後遺症によって働く能力が低下し、将来的に収入が減ると見込まれる場合に請求できます。
・手や足の機能低下で仕事が困難になる
・慢性疼痛や神経障害で労働時間が減る
・美容上の傷跡が職業に影響する(接客業など)
傷害事件の慰謝料の相場
傷害事件の慰謝料は、ケガの程度・治療期間・後遺症の有無などで大きく変わります。
打撲・軽傷(通院1〜3か月):10〜50万円
骨折・中程度のケガ(通院3〜6か月):50〜120万円
重度傷害・手術が必要(通院半年以上):100〜300万円以上
後遺障害あり:数百万円〜数千万円
傷害事件の慰謝料の請求方法
ここでは、傷害事件の慰謝料の請求方法について解説いたします。
| 傷害事件の慰謝料の請求方法 |
| ➊病院で治療を受け、診断書を取得する(最重要)
❷警察へ被害届または告訴を行う ❸証拠を集める(最重要) ❹ 治療費・交通費・休業損害を記録する ❺ 加害者へ損害賠償請求(示談交渉) ❻ 示談書を作成する(合意した場合) ❼ 示談が成立しなければ民事訴訟を行う |
➊病院で治療を受け、診断書を取得する(最重要)
まず最初に病院で治療を受け、診断書を取得することです。
診断書を取得する理由は、以下です。
・ケガの存在と程度を医学的に証明できる
・加害行為とケガの因果関係の根拠になる
・慰謝料額(治療期間・後遺障害)に大きく影響する
診断書は必ず保管し、治療の記録も残します。
❷警察へ被害届または告訴を行う
刑事手続が進むことで、民事の慰謝料請求でも有利になります。
警察へ被害届または告訴を行うメリットを以下に記載します。
・捜査記録・実況見分調書が証拠となる
・加害者の犯行が公的に認定されやすい
・加害者にプレッシャーがかかり示談が進む
❸ 証拠を集める
慰謝料請求の成否は、証拠で決まります。
傷害事件の慰謝料請求において有効な証拠を以下に記載します。
・ケガの写真(日時入りが望ましい)
・防犯カメラ映像
・目撃者の証言
・加害者とのメッセージや通話記録
・診断書・通院記録
・血痕・破損した衣服などの物的証拠
❹ 治療費・交通費・休業損害を記録する
請求できる損害を具体的に算出するため治療費・交通費・休業損害を記録します。
記録すべきものは以下となります。
・領収書
・通院交通費の明細
・給与明細・休業証明書
・経費の領収書(薬・固定具など)
❺ 加害者へ損害賠償請求(示談交渉)
加害者へ損害賠償請求(示談交渉)を行います。
通常は 内容証明郵便 で請求内容を正式に通知します。内容証明郵便には、以下のことを記載します。
・ケガの状況
・請求額(慰謝料+実費)
・支払期限
・示談書の条件
❻ 示談書を作成する(合意した場合)
示談が成立したら示談書を作成します。示談書は。必ず文書化します。
示談書には以下のことを明記します。
・支払額
・支払日
・再発防止
・将来の損害賠償請求をどう扱うか
❹ 民事訴訟(交渉がまとまらない場合)
示談交渉がまとまらない場合、裁判で慰謝料の支払いを求めることができます。
裁判で有利になるケースは。以下の4点です。
・診断書あり
・ケガの写真がある
・被害届・捜査記録がある
・目撃証言がある
加害者が刑務所に入った場合、誰が、いつ慰謝料を払うのか?
加害者が刑務所(刑事事件として服役)に入った場合でも、慰謝料の支払い義務は消えません。
では、いつ・誰が・どのように支払うのかをわかりやすく解説します。
誰が慰謝料を払うのか?
慰謝料を払うのは、 「加害者本人」 です。
・刑務所に入っても支払い義務は継続します。
・出所後も請求可能です。
・加害者に資産があれば差し押さえも可能です。
刑事罰と民事の賠償責任は別なので、刑務所に入っても 賠償義務は残り続けます。
加害者が刑務所にいる間は慰謝料はいつ払われる?
通常、服役中は仕事も収入もほとんどないため、以下のようになります。
加害者に貯金・財産がある
差し押さえ手続きによってすぐに回収可能です。
不動産・預金・車などがあれば強制執行できます。
加害者または家族が任意で払う
加害者の家族が代理で支払う場合もあります。
ただし家族に法的義務はありません。
加害者に財産がなく、家族も払わない
服役中はほぼ回収できません。
出所後の給料・財産から回収するのが基本です。
刑務所内で給与(作業報奨金)はもらえる?
刑務所の作業報奨金は非常に少なく、月数千円〜2万円程度です。
これは、犯罪被害者支援センターに支払われる制度もありますが、慰謝料として十分な額ではありません。
何年後でも請求できる?
慰謝料の請求には 時効(原則3年) があります。
ただし
・調停・裁判で確定した場合、10年に延長できます。
・時効前に督促や書面通知を送ることで時効更新が可能です。
※刑事事件で有罪確定すると民事の証明が有利になります。
加害者が払わない場合の回収方法
加害者が払わない場合の回収方法は、出所後に以下のものに強制執行できます。
・給料
・銀行預金
・不動産
・車
・各種財産
加害者が就職した場合、給与の最大25%まで差し押さえ可能です。
傷害事件の慰謝料請求における注意点
傷害事件の慰謝料を請求する際に失敗する要因を以下に記載します。
・ケガ直後に病院へ行かないと 因果関係を否定される恐れあり
・証拠が弱いと慰謝料が大幅に下がる
・被害者側の挑発行為があると過失相殺される場合がある
・加害者に支払い能力がないと回収が難しくなる
まとめ

傷害事件の慰謝料の相場(金額)、要件、種類、請求方法、注意点について解説いたしました。
傷害事件で慰謝料を請求する際に最も重要なことは、ケガの証明と加害行為との因果関係を示す証拠を確保することです。
まず医療機関で診断書を取得し、治療経過を記録することが不可欠です。
併せて、負傷部位の写真、目撃証言、防犯カメラ映像、加害者とのやり取りなど、客観的な証拠を収集します。
また、治療費・交通費・休業損害など損害額を示す領収書や明細を保存しておくことも必要です。
加害者への請求は内容証明で行い、示談が成立した場合は必ず書面化します。交渉が難航すれば民事訴訟による解決を検討します。


