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職場で上司から執拗に身体へ触れられ、悩んでいませんか。部下の意思に反して身体に触れる行為は、セクハラに該当する可能性が極めて高いものです。また、職場の「上司と部下」に限らず、「教師と生徒」や「取引先・顧客」といった優位な立場を利用した不本意な性的言動も、セクハラとして多数報告されています。
不快に感じていても「相手が上司だから」と声を上げられないケースは少なくありませんし、加害者本人が悪意なく行っている場合もあります。しかし、放置すれば状況がエスカレートし、被害者の心身に深刻な影響を及ぼす危険性があります。早い段階で適切な対処をとることが大切です。
この記事では、上司のセクハラに該当する行為、セクハラ上司に共通する特徴、セクハラを受けた場合の対処方法、セクハラに関連する法律について詳しく解説いたします。
上司からのセクハラに該当する6つの行為
上司からの行為で、一般的にセクハラ(職場の性的嫌がらせ)に該当する可能性が高いものを整理してお伝えします。厚生労働省の指針で示されている分類に沿った内容なので、実務上の判断にも使いやすい項目です。
身体への接触
上司が部下の許可なく身体に触れる行為は、最も典型的なセクハラです。肩や背中を触る、手を握る、抱きつくといった直接的な接触はもちろん、狭い場所で必要以上に体を密着させるなどの行動も該当します。本人の意思に反して身体に触れる行為は、ほぼ確実にセクハラと判断される非常に悪質な行為とされています。
外見・身体への性的コメント
容姿や身体の部位について評価したり、「その服セクシーだね」などと性的な視点で褒める発言はセクハラの代表例です。たとえ軽い冗談のつもりでも、受け手が不快に感じればセクハラに該当します。職場での見た目に関する性的な発言は、相手の尊厳を傷つける行為です。
性的な冗談・下ネタ
下ネタを言う、性的な話題を強要する、アダルト系の画像や動画を見せるなどの行為も明確なセクハラです。飲み会や休憩時間でも「職場内の関係性」で行われた場合はセクハラとみなされます。本人が嫌がっているのに話題を続けることは、精神的なストレスを与える行為です。
食事・デートの強要
上司という立場を利用して、何度も食事やデートに誘う行為もセクハラになります。断りにくい状況で誘い続けたり、「断ったら評価に響く」と示唆するような言動は、優越的地位の乱用に当たります。業務とは関係のない個人的な関係を強要することは明確にアウトです。
プライベートへの過度な干渉
恋人や家族のことをしつこく聞き出す、休日にも私的なメッセージを大量に送るなど、プライベートに踏み込む行為もセクハラに該当することがあります。仕事と関係のない領域まで踏み込み、相手に不快感や恐怖感を与える行為は問題とされます。
特定の部下への特別扱い・依存的言動
特定の部下だけを過剰に優遇したり、プレゼントをしつこく渡すなどの行為もセクハラに該当することがあります。「君がいないと仕事ができない」といった依存的な発言を繰り返すことで、相手に精神的負担を与えるケースもあります。このような行動は、職場の公平性を損なう重大な問題です。
就業上の不利益を伴う性的嫌がらせ(対価型)
「望まない関係を拒んだら評価が下がった」「要求に応じれば仕事が有利になると言われた」といった、性的な関係を条件に仕事上の不利益や利益を操作する行為は、法律で明確に禁止されています。これはセクハラの中でも最も重大なケースの1つで、企業にも厳しい責任が問われます。
セクハラを行いやすい上司の特徴
セクハラを行いやすい上司の特徴を項目ごとにまとめて整理しましたので以下に紹介いたします。
セクハラ上司の特徴1:立場の優位性を利用するタイプ
評価権や異動権など、自分が持つ権限を背景に部下へ不適切な接触や要求を行うタイプです。「断れば不利になる」と思わせ、部下が抵抗できない状況を作り出します。
セクハラ上司の特徴2:パーソナルスペースを理解できないタイプ
相手の距離感を読めず、必要以上に身体を近づけたり、自然な流れを装って触れてくる特徴があります。本人に悪気がない場合もありますが、継続すると立派なセクハラに該当します。
セクハラ上司の特徴3:性的な話題や下品な冗談を日常的に口にするタイプ
性的な話や身体に関するコメントを軽い気持ちで言うタイプです。「冗談のつもり」「場を和ませている」などと言い訳しがちで、本人の自覚が乏しいケースが多いです。
セクハラ上司の特徴4:自己中心的で共感力が低いタイプ
相手の気持ちを察する力が弱く、嫌がられても気づけない、もしくは気づいても気にしません。部下を「自分の所有物」のように扱う傾向があり、無意識のうちに加害行為につながります。
セクハラ上司の特徴5:特定の部下に執着するタイプ
気に入った部下だけに過剰に接近したり、特別扱いするタイプです。食事や個人的な連絡を頻繁に求める、仕事以外の領域に踏み込もうとするなど、ストーカー的な言動に発展することもあります。
セクハラ上司の特徴6:ハラスメント知識が乏しく時代錯誤な価値観のタイプ
「昔は普通だった」「これくらいで騒ぐな」という古い価値観を持つ上司です。自覚なくセクハラを行い、改善指摘を受けても理解できない場合があります。
上司からセクハラを受けた時の対処法について
上司からセクハラを受けた時の対処方法を以下に紹介いたします。
| 上司からセクハラを受けた時の対処方法 |
| ➊ 記録を残す(証拠の確保)
❷ 信頼できる人・窓口に相談する ❸ 上司と物理的・心理的距離を取る ❹ 会社へ正式に申し出る(相談・調査を依頼) ❺ 外部機関に相談する(会社が動かない時の選択肢) ❻ 医療機関やカウンセリングを受ける ❼ 休職・部署異動・退職などの選択肢 ❽ 法的措置を検討する(最終手段) |
➊ 記録を残す(証拠の確保)
セクハラは「言った/言わない」「触った/触っていない」の争いになりやすいため、まずは証拠を残すことが大切です。
・日時・場所
・被害内容(言われた言葉、された行為)
・その時の状況・感情
・相手の名前、同席者
メール・LINE・音声などのデジタル証拠
※メモでも十分証拠として役立ちます。
❷ 信頼できる人・窓口に相談する
職場によって相談先は複数あります。1か所に限定せず、複数に相談しても問題ありません。
・会社のハラスメント相談窓口
・人事部・総務部
・労働組合
・産業医・社内カウンセラー
※相談した内容は守秘義務が守られるため、企業側が勝手に不利益な処遇をとることはできません。
❸ 上司と物理的・心理的距離を取る
被害が続かないように、できる範囲で自衛行動をとります。
・個室で2人きりにならない
・密接な接触が予想される業務を避けるよう依頼
・席替えや担当替えを相談
※可能であれば第三者を交えた形で対応するのが安全です。
❹ 会社へ正式に申し出る(相談・調査を依頼)
相談窓口や人事部へ、正式に改善対応を求めることができます。企業には「職場のハラスメント防止義務」があるため。
・事実確認
・再発防止策
・加害者への指導
などの対応が求められます。
❺ 外部機関に相談する(会社が動かない時の選択肢)
会社が対応してくれない場合や、社内相談がしづらい場合は外部の専門機関を利用できます。
・労働局(総合労働相談コーナー)
・法テラス(無料法律相談)
・弁護士への相談
・各地の女性センター・男女共同参画センター
※相談は無料の機関が多く、匿名でも利用可能です。
❻ 医療機関やカウンセリングを受ける
精神的ストレスや不安が強い場合は、心療内科やカウンセラーに相談することで、診断書を得られ、会社への説明にも役立ちます。
❼ 休職・部署異動・退職などの選択肢
被害が続き心身に影響が出る場合は、以下の選択も視野に入ります。
・休職制度の利用
・部署の異動申請
・退職(退職代行などを利用するケースもあり)
※無理に我慢する必要はありません。
❽ 法的措置を検討する(最終手段)
・民事訴訟(損害賠償請求)
・労働審判
・内容証明郵便での警告
などがあります。
弁護士に相談することで、最適な手段を判断できます。
上司からのセクハラは、あなたのせいではありません。
「適切な対処方法を知り、証拠を残し、相談先を確保する」ことが最も大切です。
セクハラに関する法律について
日本で「セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)」を扱う法律は、主に 労働関連法 を中心に定められています。ここでは、重要な条文や企業の義務まで、分かりやすくまとめてご説明します。
男女雇用機会均等法(均等法)
男女雇用機会均等法は、セクハラを直接規制している最も重要な法律です。
● 根拠条文
男女雇用機会均等法 第11条
事業主に対して、
・セクシュアルハラスメントの防止措置
・苦情処理体制の整備
・再発防止策
を講ずる義務(=「雇用管理上の措置義務」)を課しています。
● 事業主が必ず行わなければならないこと
・事業主の方針の明確化と周知・啓発
(就業規則・社内研修・ポスター掲示など)
・相談窓口の設置
(相談担当者の明確化、相談しやすい体制づくり)
・事実関係の迅速・正確な調査
・被害者への配慮措置
(配置転換、業務変更、メンタルケアなど)
・加害行為者への措置
(厳重注意・異動・懲戒処分など)
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)
主にパワハラに関する法律ですが、セクハラを含むハラスメント全般に対する防止措置についても規定しています。
● 企業の義務
・職場のあらゆるハラスメントに対する相談窓口の整備
・ハラスメント防止のための実効的措置
・企業が何もしない場合、指導や勧告の対象になり得ます。
労働安全衛生法
セクハラによって心身に不調が出た場合、企業には労働者の安全配慮義務があります。
● 関連する部分
・メンタルヘルス対策
・産業医への相談
・ストレスチェック制度
※企業が安全配慮義務を怠った場合、賠償責任を問われることがあります。
民法(不法行為法)
加害者(上司等)が特定される場合、損害賠償請求を行うための法的根拠になります。
● 不法行為(民法709条)
加害者に対し、慰謝料、損害賠償を請求できます。
また、企業側にも
使用者責任(民法715条)
が問われるケースがあります。
※加害者を管理する立場としての責任。
刑法に該当する可能性のある行為
内容によっては犯罪として処理されることもあります。
● 強制わいせつ罪(176条)
→ 無理やり抱きつく、胸や下半身に触るなど
→ 6か月以上10年以下の懲役
・迷惑防止条例違反(各都道府県)
→ しつこいつきまとい、卑わいな言動
→ 6か月以下の懲役 または 50万円以下の罰金
・名誉毀損(230条)
→ 性的な噂を流す
→ 3年以下の懲役もしくは禁錮、50万円以下の罰金
・侮辱罪(231条)
→ 事実を言わずに侮辱する(バカ、ブス、性的侮辱など)行為に適用。
2022年に大幅に罰則強化。
→ 1年以下の懲役もしくは禁錮、または100万円以下の罰金
・ストーカー規制法
→ 付きまとい、監視、待ち伏せなど
1年以下の懲役 または 100万円以下の罰金
※被害内容によっては警察に相談可能です。
まとめ

上司のセクハラに該当する行為、セクハラ上司に共通する特徴、セクハラを受けた場合の対処方法、セクハラに関連する法律について詳しく解説いたしました。

