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上司によるパワーハラスメントとは、職務上の立場を利用し、業務の範囲を超えて精神的・身体的な負担を与えたり、職場の環境を悪化させたりする行為を指します。具体的には、人格を否定する発言や暴言、過度な業務の押しつけ、意図的に孤立させる対応などが典型例です。
こうしたパワハラを受けた部下は、心身の不調や仕事への影響、日常生活の乱れなど多方面で悪影響を受けやすく、放置すれば深刻な状態に陥る可能性もあります。
この記事では、パワハラ上司の特徴と、パワハラを受けた場合の対処方法について徹底解説いたします。
パワハラ行為に該当する6つの分類
パワーハラスメント(パワハラ)は、職務上の立場や力関係を背景に、業務の適正な範囲を超えて相手に精神的・身体的な苦痛を与える行為のことです。厚生労働省は、パワハラを以下の6つに分類しています。
身体的な攻撃(暴力・傷害)
身体的な攻撃とは、殴る・蹴るといった直接的な暴力行為だけでなく、机を叩いて威圧したり、物を投げつけて恐怖を与える行為なども含まれます。業務とは無関係な力によって相手に危険や恐怖心を与える行為は、明確にパワハラと判断されます。
精神的な攻撃(言葉の暴力)
精神的な攻撃は、人格否定や侮辱など言葉を用いて相手の心を傷つける行為です。「使えない」「辞めろ」といった暴言や、大勢の前で恥をかかせるような叱責、長時間にわたる執拗な説教などが該当します。精神的ダメージが深刻になりやすいため、重大なパワハラとされます。
過大な要求(不可能な仕事の押しつけ)
過大な要求とは、明らかに達成が難しい量や内容の仕事を一方的に与え、失敗を前提に負担をかける行為です。残業が必要な量の業務を常に押しつけたり、不可能な期限での成果を求めるなど、業務の範囲を超えた無理な要求がパワハラに当たります。
過小な要求(能力に見合わない過度な軽作業)
過小な要求は、本人のスキルや役職を著しく無視した簡単すぎる仕事だけを与えたり、ほとんど仕事を与えず放置したりする行為です。能力を発揮できない状態に追い込み、精神的な苦痛や疎外感を与えるため、これもパワハラの一つとされています。
人間関係からの切り離し(意図的な孤立化)
人間関係の切り離しとは、意図的に会議や業務連絡から外し、情報を与えないようにするなど、組織から排除する行為を指します。同僚や部下に「話しかけないように」と指示して孤立させるケースも該当し、職場の中で孤独に追い込む極めて悪質なパワハラです。
個の侵害(必要以上のプライバシー干渉)
個の侵害とは、業務とは関係のない私生活に過度に踏み込む行為です。家族構成や交際相手について詮索したり、休日の行動を監視したり、個人のSNSをしつこく確認するなどが含まれます。相手のプライバシーを脅かし、不快感や恐怖を与える行為としてパワハラと判断されます。
パワハラクソ上司の特徴
パワハラを行いやすいクソ上司には、いくつか共通した傾向があります。ここでは、その代表的な特徴をいくつか取り上げてご紹介します。
パワハラクソ上司の特徴1:とにかく「自分は優秀だ」と強くアピールし、周囲にそれを示そうとするタイプ
自分を「優秀な人間だ」と周囲から思われたい欲求が強いタイプの上司です。
こうした上司は、必要以上に大きな声で電話をしたり、他人を貶める言動を繰り返すなど、自己アピールのための行動が目立ちます。主な特徴としては、次のような点が挙げられます。
・他者を見下すような発言を日常的に行う
・自身の失敗を部下の責任にすり替えて逃れようとする
・仕事を安易に引き受けたうえで、実際の作業は部下に丸投げして放置する
・部下の成果や功績をすべて自分のものとして評価されようとする
このような態度や行動は、職場の雰囲気を悪化させる要因となりやすいタイプです。
パワハラクソ上司の特徴2:感情の起伏が激しく、自分でうまくコントロールできないタイプの上司
このタイプの上司は、「普段自分に質問してくる部下が、たまたま別の上司に相談した」といった、一般的には気に留めないような些細な出来事でも激昂し、標的にした相手を長時間にわたり責め続けるような行動が見られます。
そのほかにも、次のような特徴が挙げられます。
・部下のちょっとした発言や振る舞いを過剰に受け取り、「敵」とみなしてしつこく攻撃する
・部下に対する好き嫌いが極端で、その差が態度に明確に表れる
・ミスをした部下を必要以上に長時間叱責し続ける
・自己中心的で、自分の思い通りにならないとすぐに怒りをあらわにする
・信頼する相手には徹底的に尽くす一方で、裏切られたと感じた相手には過度に攻撃的になる
こうした特性を持つ上司は、感情のコントロールが難しく、周囲に強いストレスを与える傾向があります。
パワハラクソ上司の特徴3:自分の評価や立場ばかりを気にかけ、部下をあくまで“道具”としてしか思っていないタイプの上司
このタイプの上司は、自分の評価や成果だけを最優先し、部下の気持ちや状況には一切配慮しないまま、まるで“仕事をこなすための道具”のように扱う傾向があります。
主な特徴としては、次のような点が挙げられます。
・部下に無理な業務を押しつけ、自分の評価だけを上げようとする
・親の介護など事情を抱える部下に対し、転勤を示唆して追い詰めるなど、弱みを利用して支配しようとする
・「使えない」と判断した部下を即座に切り捨てる
・成果のためなら部下の健康や負担はどうでもよいと考え、過度な残業で体調を崩しても気にかけない
・経営陣からは有能に見られやすく、問題が表面化する前に部下の異動などで隠ぺいするため、パワハラが外から見えにくい
このような上司のもとでは、部下は深刻なストレスを抱えやすく、問題が長期化しやすい点が特徴です。
パワハラクソ上司の特徴4:精神論を重視し、自分の価値観や根性論を周囲に押し付けるタイプの上司
このタイプの上司は、目標未達の原因を「努力不足」の一言で片づけてしまう傾向があります。
部下の適性や能力、または業務の仕組みや環境面への配慮を怠り、根性論だけで乗り越えようとするのが特徴です。特に、自身がかつて上司から精神論を押し付けられてきた経験がある場合、その考え方を無意識のうちに部下にも適用し、同じような厳しさを求めがちです。
パワハラクソ上司の特徴5:「部下のため」という大義名分を掲げ、度を超えた熱血指導を行ってしまうタイプの上司
部下の成長を思うあまり指導に熱が入りすぎ、結果として部下を追い込んでしまい、精神的な不調に陥らせてしまうケースもあります。
本人は善意のつもりでも、その行為がパワハラと見なされ、最悪の場合は自身が処分され会社を去る事態に発展することも、近年では珍しくありません。こうしたトラブルを避けるには、どのような言動がパワハラに該当するのかという正しい知識を、従業員全体に周知することが重要です。
上司からパワハラを受けた場合の対処方法について
上司からパワハラを受けたときは、感情に任せて動くのではなく、自分を守るために適切な手順を踏むことが大切です。ここでは、効果的な対処方法を段階ごとに整理してご紹介します。
| 上司からパワハラを受けた場合の対処方法 |
| ➊ 証拠を残す(最優先)
❷ 信頼できる人に相談する ❸ 会社の相談窓口・人事部へ正式に申し出る ❹ 心身がつらい場合は医療機関へ相談する ❺「労働局の総合労働相談コーナー」に相談する ❻ 労災申請を検討する(精神障害の労災認定) ❼ 状況が改善しない場合は転職も選択肢 |
➊ 証拠を残す(最優先)
パワハラは当事者同士で「言った・言わない」の争いになりやすいため、まずは客観的な証拠を残すことが欠かせません。証拠がそろっていると、相談や報告の際に状況が非常に伝わりやすくなります。
・日付や状況、発言内容を詳細に記録したメモ
・スマートフォンなどを利用した音声録音
・パワハラの内容が確認できるメールやチャットの履歴
・身体的な被害がある場合の写真や医師の診断書
・可能であれば同僚など第三者の証言
こうした証拠を積み重ねておくことが、後の対応を大きく助けてくれます。
❷ 信頼できる人に相談する
一人で悩みを抱え込むと精神的な負担が大きくなってしまいます。誰かに相談することで、自分の状況を客観的に見つめ直すきっかけにもなります。
・同僚や同期
・職場の相談窓口(コンプライアンス担当や人事部など)
・産業医
・家族や友人
信頼できる相手に話すことで、心の負担が軽くなり、次に取るべき行動を考えやすくなります。
❸ 会社の相談窓口・人事部へ正式に申し出る
職場に相談窓口が設けられている場合は、集めた証拠を添えて正式に申し出ることが重要です。企業にはパワハラを防止するための対策を講じる義務があり(パワハラ防止法)、相談内容に応じて次のような対応が検討されます。
・上司の担当変更
・部署の異動
・加害上司への指導や処分
適切な窓口へ報告することで、組織としての改善措置が期待できます。
❹ 心身がつらい場合は医療機関へ相談する
精神的な負荷が強いと感じる場合は、心療内科やメンタルクリニックを受診することをおすすめします。医師の診断書があれば、次のような手続きの際にも有利に働きます。
・休職の申請や調整
・労災申請
専門家のサポートを受けることで、心身の回復だけでなく、今後の対応も進めやすくなります。
❺「労働局の総合労働相談コーナー」に相談する
❼ 状況が改善しない場合は転職も選択肢
このような職場環境は、今後も大きく改善されない可能性が高く、思い切って転職し環境を変えることが最も現実的で効果的な解決策となる場合も少なくありません。
・上司や周囲が「あなたに問題がある」と決めつけてくる
・組織全体がパワハラを黙認、もしくは容認している
・相談しても状況が変わらず、改善の兆しがまったく見られない
このような状況が続く場合は、長くとどまるほど心身への負担が大きくなるため、新しい職場を検討することも前向きな選択肢といえます。
パワハラに関する法律について
パワハラ(パワーハラスメント)に関する法律は、主に 「労働施策総合推進法(改正パワハラ防止法)」 によって定められています。ここでは、要点をわかりやすくまとめてご説明します。
労働施策総合推進法(改正パワハラ防止法)とは?
労働施策総合推進法(改正パワハラ防止法)は、2020年6月から順次施行され、中小企業も含め 2022年4月からはすべての企業に義務化 されています。
【法律のポイント】
企業に「パワハラ防止措置」を講じる義務がある。
※これは「努力義務」ではなく 完全な義務 です。
・パワハラを防ぐための社内方針の明確化
・社員向けの研修や啓発
・相談窓口の設置
・相談者や調査協力者への不利益扱い禁止
・問題発生時の迅速な事実確認と対応
パワハラの定義(法律上の正式な定義)
「優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超え、
労働者の就業環境を害するもの」
つまり、
立場の強さを利用した不当な言動で、相手の働く環境を悪化させること
を指します。
法律で示された「6つの典型例」
厚生労働省は、以下の6類型を典型例として示しています。
・身体的な攻撃(殴る・蹴るなど)
・精神的な攻撃(暴言・叱責・侮辱)
・過大な要求(不可能な業務量の強要)
・過小な要求(仕事を与えない・能力無視の単純作業のみ)
・人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し)
・個の侵害(プライバシーへの過度な介入)
労働施策総合推進法(改正パワハラ防止法)の罰則について
パワハラそのものを単独で「犯罪」とみなす法律、いわゆるパワハラ罪は現段階では存在しません。ただし、行為の内容によっては複数の法律が適用される可能性があり、企業や上司が厳しい処分を受ける場合があります。
企業へのペナルティ(義務違反の罰則)
労働施策総合推進法(パワハラ防止法)における罰則について
パワハラ防止法では、企業に対して「パワハラ防止措置」を講じることが義務付けられています。この義務に違反した場合、厚生労働省から指導や勧告が行われ、状況によっては企業名が公表されることもあります。
企業名が公表されると、採用活動や取引関係、社会的信用に深刻な影響を及ぼすため、企業にとっては大きな痛手となります。
なお、直接的な刑事罰や罰金は規定されていませんが、社会的制裁という点では非常に重いペナルティといえるでしょう。
上司本人が受ける可能性のある“法律上の罰則”
上司によるパワハラ行為が深刻化すると、企業だけでなく上司本人が「刑事罰」の対象となる可能性があります。内容によっては、以下のような刑法が適用されます。
● 暴行罪(刑法208条)
殴打・蹴り・物を投げつけるといった身体的攻撃が該当し、6ヶ月以下の懲役または10万円以下の罰金が科されます。
● 傷害罪(刑法204条)
怪我を負わせたり、精神疾患を引き起こした場合に適用され、15年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
● 名誉毀損罪(刑法230条)
人格を否定する発言や公開の場で恥をかかせる行為が対象で、3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
● 侮辱罪(刑法231条)
名誉毀損に至らない侮辱行為でも処罰され、拘留または科料が科されます。
● 脅迫罪(刑法222条)
「辞めさせる」「命を奪う」などの脅しを行った場合、2年以下の懲役または30万円以下の罰金となります。
● 強要罪(刑法223条)
過度な残業を強制する、無理な業務を押しつけるなどが該当し、3年以下の懲役が科されます。
このように、パワハラは内容次第で上司自身が重大な法的責任を負うことになるため、決して軽視できない問題です。
上司・会社が受ける“民事上の責任”
刑事罰とは別に、パワハラの被害者は民事上の手続きによって以下のような請求を行うことができます。
● 損害賠償請求(慰謝料)
精神的な苦痛、通院費などの実損に対して賠償を求めることができ、ケースによっては数十万円から数百万円規模の支払いが命じられることもあります。
● 企業に対する「安全配慮義務違反」の追及
会社が職場環境を適切に保たなかった場合、企業側にも安全配慮義務違反として賠償責任が生じます。
このように、パワハラは上司本人だけでなく企業にも法的責任が及ぶ重大な問題です。
まとめ

上司からパワハラを受けた場合は、まず感情的に動かず、自分を守るための準備を進めることが重要です。
最初に行うべきは、言動や状況を記録したメモ、音声、メール・チャット履歴などの証拠を確保することです。
次に、同僚・家族・産業医・職場の相談窓口など信頼できる相手に相談し、客観的な意見を得ます。
証拠をもとに会社の相談窓口へ正式に報告し、部署異動や加害者への指導などの対応を求めましょう。
精神的なダメージが大きい場合は医療機関を受診し、休職や労災申請も検討します。
会社が対応しない場合は、労働局など外部機関へ相談し、最終手段として転職で環境を変える選択肢も考えることが大切です。
